【書評】「指名される技術 六本木ホステスから盗んだ、稼ぐための仕事術」 出世術を科学する
2016/09/17
他のホリエモンの本とはちょっとちがって、処世術の本です。
書いてあるのはいつものイケイケなものではなく、距離感についての論理的な考え。
「どのように振る舞えば指名してもらえるか」について、これでもかというほど書かれています。
「距離感」をマニュアル化
この好循環を止めないために、胴元は少し離れたところから世話をする必要が出てきますが、その際に必要となってくる技は、起業した時の打ち上げロケットのようなパワープレイではない。もう少し違うタイプのノウハウです。それは何か? それは「距離感」です。
誰かに指名されるにあたり、距離感というのは重要です。
ガツガツしすぎてもダメ、かといって控えめすぎてもダメ。
その絶妙な距離感について、この本では考察されています。
データを相手にする場合とひとを相手にする場合とでは、当然ながらやるべきこともちがってきます。
ひとを相手にする場合は近づいてばかりではなく、時として距離を置くことも必要です。
データを相手にするときとのちがいは、曖昧さがかなり増えるという点です。ここをうまくやれれば気に入ってもらえますし、しくじるとムダになってしまいます。
この本では距離の取り方について技術化がなされており、ケーススタディ式に学べるようになっています。
精神論で語られることが多い分野において、精神論ではない方向から考えられているわけです。
言いかえれば、お客さんから指名される方法をマニュアル化したと言ってもいいでしょう。
兵法書に注意書きを加えるかのごとく、こと細かく書かれています。
主役を引き立てるにもマーケティング感覚は欠かせない
話はそろそろ核心になりますが、彼らが失敗しないために気をつけていることは何か?
それは主役を食ってしまうこと。主役より目立とうとしたら、出演依頼は二度とこない。だから脇役の人たちは「空気を読む技術」がすごい。
つまり良いゲームというのは、召使のように主人の言葉を待つ「耳」が発達している。ユーザーがどんなことをやりたいと思うかをよく考えて作られているのです。そういうものに人々はハマります。良いゲームはユーザーによって完成されるのです。
ひとを相手にするにあたっては、相手を引き立たせることが欠かせません。
相手が主役感を感じて満足すれば次回も指名してもらえます。
そのためいかに「すごい脇役」となるかが重要です。
しかし単にゴマをするだけではダメで、マーケティング感覚も必要になってきます。
まだ若いホステスたちは、よってたかって、この客のことを「ストーカー」と悪く言いますが、ベテランホステスは、そうではない。「悪いのはIちゃんよ」と言う。
その理由は簡単です。「客は自分が主役になりたいから店にくる」というクラブの大原則にこの客もちゃんと則っている。むしろそれをまっすぐに、しかも頻繁に実践してくれていたわけです。その点でこの人は歓迎すべき客なのです。
こういう客をうまくハンドリングしてリピートさせるのがホステスの仕事なのです。
例えば、たとえしつこいお客さんがいたとしても、お客さんは悪くありません。
お客さんが主役という原則のもと、お客さんに満足してもらうことが重要であって、しつこいお客さんを拒絶してはならないのです。
こういうのは提供者の視点に立てないと気づけません。
消費者的な視点からすればしつこいお客さんというのは犯罪者ですが、サービスを提供する側からすれば原則に則ったお客さんそのものということであり、NOを突きつけるというのはご法度です。
マーケティングの視点を身に付ければ、見えるものもちがってくるでしょう。
相手を喜ばせるには、相手の望むものを知ることが必要です。
消費者の考え方ばかりでは気づくのがむずかしいもの。
パッと見でダメなように見えても、提供者の考え方からすれば正しいということも少なくはありません。
去勢ではなく抑えることが重要
指名されるというと、顧客第一というのが一般論であり、去勢してゴマすりすることが大切であるかのような空気は多分に存在します。
しかし実際にはそうではなくて、消費者の視点を理解できるというのも欠かせない要素であります。
去勢する必要はないのです。
本書では、クライアントとの距離感や自分の身の置き方、などについて話してきました。
しかし、それは痛みを感じるな、ということではありません。痛みがわからない者にサービスのいい悪いはわからない。
自分の欲望や願望まで捨ててはいけない、本書の最後に僕が言っておきたいのは、そのことです。
あくまでも自分というのは抑えるだけであって、相手の思っていることを理解するには欲望もムダにはなりません。
ゴマすりと聞くとまるで去勢する必要があるかのように感じられますが、それはちょっとちがいます。
欲を持つというのもマーケティング感覚には欠かせない要素で、お客さんがどのような欲求を持つのかについてはカギとなるものです。
読まれるブログがいいところを突いているように、繰り返し指名される人間というのは相手の望みをしっかりと理解しています。
それは消費者視点を失ってしまってはできないことです。
提供者の姿勢をベースにする一方で、消費者の考え方も理解する。
これが継続して指名されるということにつながるのです。
読んでみるとただの精神論ではなく、しっかりと科学されている印象がありました。
特に自分を隠す一方で欲望を否定しないあたりは、摩訶不思議な感じがあります。
処世術や出世術という観点からすれば、非常に参考になるでしょう。
具体例を交えて論理的に書かれているので、するすると頭にはいってきます。